第30巻

【第30巻第1号】  阿部 周造 先生 退職記念号  2009年6月刊行 
献辞
  • 八木 裕之

論説
  • 年金債務の変動リスクとヘッジ(浅野 幸弘)
  • 役割の異なるプレーヤが混在するビジネスゲームの開発に関する考察(白井 宏明)
  • 技術非効率発生メカニズムの動態的分析
         ――食品スーパーのパネルデータを用いて――(鳥居 昭夫)
  • 有価証券概念の変遷と問題点(高橋 正彦)  ▼
      金融商品取引法の適用範囲を画する有価証券の定義規定では,証券・証書のある有価証券を原則とし,それ以外のみなし有価証券を付加するという,旧・証券取引法以来の規定の枠組みが維持されている.有価証券概念の背後にある投資対象性の判断基準としては,法的形式と経済実態との間で,折衷的な考え方がとられているが,個別に整合的な線引きを行うことは容易でない.例えば,現状のみなし有価証券の範囲に関しては,①シンジケート・ローンやABLなどの貸付債権が含まれていない,②電子記録債権の一部が含まれている,③信託受益権のすべてが含まれているなどの点で,不均衡な取扱いもみられる.さらに,投資対象性の基準により,広範な金融商品の線引きを行うこと自体の妥当性についても,再検討の余地がある.将来の金融サービス・市場法に向けて,既存の有価証券概念の呪縛を脱し,新たな上位概念の定立など,次の局面を展望すべき段階が近付いている.
  • わが国製造企業における生産システム再構築(松井 美樹)  ▼
     Recent issues on manufacturing management in Japan are discussed with special emphasis on human resource management, just-in-time production, total quality management, technology development, and manufacturing strategy. The analysis is based on the survey data collected from manufacturing companies in 2003 and 2004, comparing with the similar data in the mid-1990s. Most of the fundamental operational issues are still remaining, although some critical changes in business practices have been made. It is shown that the determinants of competitive performance shifted from strategic orientation to more fundamental operational practices.
  • Stock Price Reaction to the New Public Equity Issues in Japan:New Evidence on the Efficiency of Japanese Stock Market(Athambawa Jahfer and Tohru Inoue)  ▼
     This paper investigates the effect of new public equity issues on stock prices in the Japanese capital market during the bubble and post-bubble periods. We find that the stock price reaction to the announcement of public equity issues is significantly positive during the bubble period and insignificantly negative during the post-bubble period. In regression analysis, we find that the key explanatory variable of new public equity issues is the future profitability of the firm. Also, investors are indifferent to the offering amount, director’s shareholding, and investment expenditures. Hence, we show that Japanese capital market is becoming efficient after bubble.
  • 価格に対する消費者の認知的および感情的反応の分析(白井 美由里)  ▼
     本研究ではこれまで十分に研究されていない価格に対する消費者の感情的反応に着目し,認知的反応と合わせて購買意図への影響プロセスを分析した.その結果,感情的反応は価格経験の状況(高い価格を提示された購買状況vs.低い価格を提示された購買状況)に関係なく少数因子で構成される比較的単純な構造をしていることが明らかにされた.また,感情的反応は認知的反応の影響を受けて喚起され,そして最終的に購買意図に影響を与えることが明らかにされた.その他,他の感情によって喚起される感情が存在すること,喚起された全ての感情が購買意図に影響を与えるのではないこと,価格反応では喚起されない感情が存在することなどが明らかにされ,個々の感情にはそれぞれ異なる役割があることが示唆された.
  • Information Fusion under Uncertainty(Peijun Guo)  ▼
     In this paper, two approaches are proposed to fuse possibilistic information for two different cases. In the first case, knowledge is represented by exponential possibility distributions and the multi-source information is defined as a set of exponential possibility distributions. The possibility distributions are fused based on the consistency index. In the second case, a linear additional model is used to integrate the possibilistic information on the multi-attribute objects evaluated by multiple evaluators. The weights of attributes are not predetermined but obtained by possibilistic linear programming problems which can reflect the inherent characteristic of the given possibilisitc information.
  • Retailers’Countervailing Power within Marketing Channels: An Empirical Analysis by National Brand(Kenji Matsui)  ▼
     Using the National Survey of Prices that reports detailed wholesale prices of representative national-brand consumer products in Japan, this paper explores retailers' countervailing power over upstream suppliers within marketing channels. Specifically, we estimate the impact of suppliers' concentration on purchasing prices for retailers by format to measure the power. Statistical analysis where the wholesale price by brand is regressed on the Herfindahl index of wholesalers reveals that a large retail format is able to wield stronger countervailing power than a small one.
  • 消費者研究におけるマーケティングリアリティ(新倉 貴士)  ▼
     独自の学問領域として認識されつつある消費者研究において,そのリアリティを捉える一つの視点であるマーケティングリアリティについて考察する.はじめに消費者研究の実状を理解するために,阿部による消費者研究とマーケティング研究の懸隔を引用しながらその相違点を明らかにし,次に消費者研究が生み出す科学的知識に対する妥当性基準について考察する.さらに幅広いリサーチメソッドとの対応づけを,Bonomaの分類を提示しながら検討する.最後に,リアリティマップを提示することにより,外的妥当性とは独立するマーケティングリアリティという次元とそのあり方を提示する.マーケティングリアリティは,消費者とマーケターと研究者のそれぞれがもつ,制約されたリアリティのトライアングルのなかで成立する限定された現実の一側面であり,相互の間で間主観的な現実味をもつものである.
  • ブランド知識の特性がブランド・エクイティに与える影響(松下 光司)  ▼
     本研究の目的は,いかなる消費者のブランド知識の特性が,ブランド・エクイティ(ブランドに対する態度評価,ブランドに対する態度評価の確信度)に影響を与えるのかを明らかにすることである.実験の結果,ブランド・エクイティの増減に影響を与えるブランド知識の特性が明らかになった.具体的には,ブランド連想の内容(ブランド関連性,自己判断性),ブランド連想の好ましさ(ポジティブ,ネガティブ,ニュートラル)が,各種のブランド・エクイティの次元に対して異なる影響を与えていることが明らかにされた.本研究の結果は,顧客ベースのブランド・エクイティ研究への理論的貢献を提示するだけでなく,ブランドを構築・維持していくためのマーケティング活動(特に,低関与の消費者を標的とした場合)を明らかにするための有用な基礎情報として位置づけられるものである.
  • デザイン・マーケティング研究に関する一考察(坂本 和子)
  • 構成概念妥当性の検証方法に関する検討――弁別的証拠と法則的証拠を中心に――(中村 陽人)  ▼
     妥当性とは,尺度が測定しようとしているものを実際に測っているかどうか,その程度を表す概念であり,ゆえに,尺度にとって妥当性という裏づけは欠くことのできない必須の要件である.そのため,尺度開発に関わる研究はもちろんのこと,構成概念を扱うような定量的研究において妥当性の検証は非常に重要なものである. 本稿では,まず妥当性の概念がいかに変遷してきたのかを辿り,その具体的な検証方法についてまとめた.次に母相関係数の検定や推定を用いた弁別的証拠の検証方法について吟味し,それらの方法が十分な検証力を持たないことを示した.また,尺度開発など一つの構成概念に対して多くの項目を用いた研究における法則的証拠の検証においては,2次因子構造型の多重指標モデルとItem Parcelingが非常に有効であることを主張した.
  • 日本と中国の消費者の省エネ行動意図規定要因に関する国際比較研究(李 振坤)  ▼
     本研究は,日本と中国の消費者の省エネ行動意図を規定する要因に注目し,その規定要因は両国において差異があるかどうかを明らかにすることを目的としている.省エネ行動意図の規定要因に関する先行研究に基づき,省エネ行動に対する態度,有効性評価,社会的規範,社会的責任感と人間自然関係指向という要因を取り上げ,考察した.これらの規定要因の役割に関して四つの仮説を立て,省エネ行動意図の規定要因モデルを構築した.実証研究では,国際比較研究の注意点を確認してから,アンケート調査により日本と中国で大学生を対象とした一次データを収集した.分析にあたっては,測定妥当性を検討してから,AMOSによる共分散構造分析で,両国のデータをそれぞれ分析し,仮説とモデルを検証した.その後に,多母集団分析による日本と中国の国際比較研究も試み,日本と中国の消費者の省エネ行動意図規定要因に関する差異を明らかにした.

阿部周造先生の略歴と研究業績


【第30巻第2号】    2009年9月刊行 
論説
  • An Analysis of the Efficiency and Productivity of Nigeria’s Puublic Hospitals(Ade Ibiwoye and Shunsuke Managi)
     The World Health Organisation, in 2000, ranked Nigeria in the 187th position out of the 191 countries evaluated on health delivery, reflecting a poor health care delivery system. Up to now, however, no study has been carried out to determine the extent of inefficiency. This paper uses the Luenberger and Luenberger–Hicks–Moorsteen productivity indicators to estimate the productivity changes in Nigeria’s public hospitals. The hospitals are ranked according to their total productivity for the period 2001-2005 and policy implications arising from the study are provided.
  • 大恐慌と会計 ――差額原価収益分析の系譜――(高橋 賢)
     現在,世界は未曾有の不況に陥っている.かつて,1929年の世界大恐慌とその後の不況期において,管理会計に不可欠なシステムが現れた.利益工学,直接原価計算,そして意思決定のための差額分析である.本論文では,このうちの差額分析について,大恐慌以前の1920年代初頭から大恐慌後の1930年代半ばまでの概念的・技法的発達を取り上げた.本論文で解明された歴史的な発達は次の通りである.  1923年のClarkの著書により,差額原価という考え方が会計の世界に持ち込まれた.この概念は,1920年代はあまり注目を浴びなかったが,大恐慌後の不況期において,注目を浴びることになる.遊休能力の積極的な利用を促すための意思決定ツールとして注目されたのである.技法的には,差額単位原価の比較から始まり,原価のみならず差額利益に注目するようになり,1930年代半ばには,現代の考え方に近い技法が完成した.
  • 食品に対する消費者の購買意思決定(白井 美由里)
     本研究では食品を対象とし,購買意思決定に関わる様々な行動に対する態度と実践,コンフリクトが発生する状況での購買意思決定,および品質に関わる問題が発覚した製品に対する消費者の購買意思決定の3点について調査を行い分析した.主な分析結果は,購買行動の態度と実践は必ずしも一致しないこと,食品に含まれるネガティブな要素を相殺する力は価格では弱いが健康や味では強いこと,問題が起きた製品への購入意図は価格,販売再開後の経過時間,食品カテゴリー,そして企業規模の影響を受けることである.
  • 次世代を担う学生意識に見る組織内コミュニケーションとモチベーションをめぐる一考察(大江 宏子)
     最近,「学習する組織」への期待が高まっている.この組織の特徴の一つは,問題発見,問題解決に柔軟に対処しうる機能にある.「学習する組織」を提唱したピーター・M・センゲ(Peter M.Senge)は,その著書『The Fifth Discipline』の中で,これを実現する5つの規律として,「システム思考,パーソナルマスタリー,メンタルモデルの克服,ビジョン共有,チーム学習」を挙げている. 米国経営品品質基準書においても,組織の革新を成功させるためには,能力開発と知識の共有化,実施の意思決定,実行,評価,及び学習という複数のステップからなるプロセスが必要であるとする.革新には,組織の業務を一層効果的に成し遂げるための,組織構造の根本的な変化を含み,「学習する組織」においては,その構成員は顧客ニーズなどの状況を把握したり,課題や解決策を発見したりするために継続的に学習を行うことが望まれるし,必要となるのだ. 本報告は,こうした革新の重要性を踏まえ,たゆまぬ革新を可能とするためのインフラとしての「学習する組織」に着目し,システム思考をはじめとする5つの規律の主張に依拠し,相互に支えあい,組織を運用する構成員すなわち従業員の相互コミュニケーションとモチベーションのありようにつき,次世代を担う組織人候補者である学生の意識に照らし,検討していく. こうした論点を参照して設計したアンケート調査の結果,しばしば批判的に論じられることの多い企業勤務に対する学生の意識は,決して巷で言われるほどに刹那的でもなく,自身の親と社会人としての勤労に関する対話をし,できれば,一つの企業に長く勤続して貢献しいきたいとの意欲を持っている側面が捕捉された.ここでの結果は,調査対象の学生が持つ個々の背景やサンプル群の事情にもよろうが,今後,わが国企業を支えてくれるであろう潜在的社会人の意欲は,先行的論者が示唆する論点に照らしても,いささかも見劣りするものではなく,引き続き,可能性と展望が広がっていることを指し示していよう.文字通り,彼らは,豊かな潜在性に富んでいるといえそうである.先輩社会人として,また,この分野の研究を生業とする我々にこそ,彼らを育み,意欲を高め,明確な指針を授けていくような環境整備における大きな責務があることを示唆しているのではなかろうか.


【第30巻第3・4号】    2010年3月刊行 
学会講演会
  • グローバル・コンバージェンスと会計基準のパラダイム(斎藤 静樹)
     本講演の主題は、会計基準の国際統合(グローバル・コンバージェンス)という流れを昨今の世界的な金融危機のなかであらためて見直すとともに、公正価値測定をキーワードとした会計基準の国際的な動向を、しばしば主張されるようなパラダイム・シフトとみることが適切かどうかを考察することにある。コンバージェンスの最適レベルと最適経路という観点からこの間の経緯と現状を批判的に展望するとともに、いわゆる公正価値会計の意義と問題点を検討してその適切な適用範囲を模索し、金融危機後に米欧で改訂の進んだ金融商品の会計基準にみられる混乱や、コンバージェンスに反してむしろダイバージする傾向を紹介したうえで、新たな国際基準の動向が、パラダイム・シフトの所産というよりもむしろ同じパラダイムのもとでのローカルな変化に近いこと、公正価値会計もそのなかに位置づけたほうが制度の体系を損なわないことを指摘する。

論説
  • 小売業者のパワーと商品集合の大きさに関する消費者の評価(白井 美由里,阿部 周造)
     本研究では小売業者の製造業者に対するパワー関係と小売業者の商品集合についての消費者の評価を詳細に分析した.前者の分析からは主に,消費者がパワーを小売業態や地理的な競争状況で判断していないこと,小売業者の特徴で見た場合にはパワーの強さはチェーン店化が,パワーの弱さは店員数,駐車場,価格が決定要因であること,パワーの強い小売業者は全体的な評価が高く,特に今後の利用意向が高いことなどが明らかされた.後者の分析からは主に,入手可能集合や認知集合に違いがあっても考慮集合の大きさはそれほど変らないこと,ある製品カテゴリーについて大きい商品集合を持つ消費者は他の製品カテゴリーについても大きい商品集合を持っていること,3つの商品集合の大きさには有意な正の相関があること,品揃えが豊富であると感じるほど品揃えに満足する傾向にあるが,同時にブランド間の品質にそれほど差異を感じない傾向が見られること,品揃えの知覚は入手可能集合の影響を最も受けること,品揃えの満足度は商品集合の大きさの影響を強く受けない傾向にあることなどが明らかにされた.
  • 新大陸の『二都物語』―シカゴとロサンジェルス―(武・アーサー・ソーントン)
  • The Construction and Application of Resource Flow Accounting in a Flow Manufacturing Enterprise under a Recycling Economy:Experience from Chinalco (Zhifang Zhou)